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プロローグ 備―リユニオン―
 

 大日本帝国の中で最先端の大都市と呼ばれる東京とは打って代わり、日本らしい伝統的な街並みを残す古都、――京都。
 それにそぐわない西洋人が、隣の日本男児に対し先程からぎゃあぎゃあと騒ぎ立てているのは、当たり前のように周りの注目を一身に集めていた。
 そもそも西洋人で無くとも大勢の人が賑わう場所で怒声を響かせたならば、どんな人であろうと驚いて必ず振り向くものだろう。ぼくも絶対見ちゃう。

「だからッ! あんた何度言ったら分かるのよ! ここは左でしょう!? なに、馬鹿なの!?」
「いやいや、絶対右! サラこそ分かってないよな?」
「はぁ? 私を誰だと思ってんの!?」

「ねえ、これさっきから何してんの……?」

 諦念を込めた眼差しで二人を見ながら、正直あの二人と知り合いだと思われたくない為少し離れたところで隣に凛と立つ真白な少女に問うた。
 対する彼女は、こてん、と右に頭を傾け、

「どうやら論争をしているようです。――次に行く美味しい茶屋についての」
「本当に何してんの!?」

 はあ、と溜息を吐きながらこめかみに手を当てる。ちょっと厠へ行ってただけでこれだよ。……全く、呑気なものだ。

「ねえあんた! ……なんだっけ」
「と! き! ひ! と!」
「なんでもいいわよそんなもん。あんたも左よね? そうでしょう?」

 どうでも良くないし威圧感が物凄く半端じゃない。これって脅迫って言うんでしょ、それくらい知ってるぞ。
 第一、こんな事をしている場合ではないのだ。二人が余裕を持ちすぎてるだけで、ぼくの内心はずっとヒヤヒヤしている。っていうかこの二人目立ちすぎじゃない? ミスキャストじゃない?
 どうしてこうなったのか……、と本気で頭を抱えつつ。

 ――事の発端は一週間ほど前に遡る。

 ☆

 ――『グレゴリオシリーズ拾弐番機、糸蓮の守護』だ。

 ざわつく喫茶店の中、神妙な面持ちを浮かべたボックス席がある。
 周りは気にもしないが、その少年少女が座るボックス席に漂う空気は恐ろしく真剣そのものだ。

「――守護? なぜ――いや、原因はあのテロリストでしょう? それでどうして守護対象が糸蓮になるのです?」
「そう、そこだ。お前も心当たりはあるだろうが、あのテロリスト共の目的は人ではなく人形、及び人形に関する施設の破壊。全国各地で細々と活動してるせいで認知度はねえが、私らみたいな上層部に近い奴らには注意喚起がきてたんだ」
「東京、何ていう大都市に、いきなり周知されるような爆破テロとして現れてきたのが気掛かりね。……それに対応できなかったことは、申し訳ないと思っているの。新人に敵の対峙を任せてしまったのは得策ではなかったわ」
「え、いやいや! 動けるのはぼくしかいなかったし、君の判断は間違っていなかった。――むしろありがとう。君がいたからぼくも糸蓮も立ち上がれたんだよ」
「……いえ」

「おーおー、青春だねえ。でも、現実は厄介ごとがまだ多く残っている。奴らに糸蓮が見つかってしまった。いくらポンコツな時仁くんでも私の人形の特異さは分かるだろう? ――つまりは、そういうことだ。安心しろ、助っ人は頼んである」

 ――師匠の笑みは、現状が重く伸し掛るぼくの心を少しだけ、ほんの少しだけ緩和させた。

 

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